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私の「できる」が誰かの「できる」に【一般社団法人 WheeLog】

掲載日:2020.03.27

PROFILE

織田 友理子さん(左)、吉藤 オリィさん(右)

織田 友理子(おだ ゆりこ)

一般社団法人WheeLog 代表/最高経営責任者
Chief Executive Officer (CEO)
アプリ発案者。車椅子ユーザーとしての視点から、必要な情報や機能面での仕様作成及び広報活動などを行う。2000年推定発症、2002年「遠位型ミオパチー」と診断を受ける。一児の母。2016年ユースリーダー賞受賞。著書『ひとりじゃないから、大丈夫。』(鳳書院)、DVD『Walker「私」の道』(ブロックス)他。東京都福祉のまちづくり推進協議会 専門部会委員、総務省地域情報化アドバイザーなども務めてる。

吉藤 オリィ(よしふじ おりぃ)

一般社団法人WheeLog 最高知識責任者
Chief Knowledge Officer (CKO)
株式会社オリィ研究所 代表取締役所長。
アプリ開発では、起業家・開発者としての視点から開発全般に対する助言、そしてイベント開催時の企画などを行う。小学5年~中学2年まで不登校。2005年、電動車椅子の新機構発明により科学技術の国際大会ISEF Grand Award 3thを受賞。2009年から対孤独用分身ロボットの研究に取組、コミュニケーションロボット「OriHime」を発表。現在はデジタルハリウッド大学特任教授も務める。 著書『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)、『サイボーグ時代』(きずな出版)

車いすユーザーが走行した道のりを地図上に描いたり、施設や設備のバリアフリー情報の共有などを行えるスマートフォンアプリ「WheeLog!アプリ」は、「あなたの「行けた♡」が誰かの「行きたい☆」に」というキャッチコピーの通り、まさに「みんなでつくるバリアフリーマップ」として、いま注目されています。このアプリを企画・制作した一般社団法人WheeLog 代表の織田友理子さんと最高知識責任者の吉藤オリィさんに、アプリ開発の背景やテクノロジーが変えるボランティアの姿、そして健常者と障害者の間に築かれた新たな関係性について伺いました。

「車いすでもあきらめない世界」の実現に向け
サステナブルな組織づくりを

遠位型ミオパチーという進行性の病気のために車いすで生活する織田さんは、かつては、車いすだから行けないとあきらめてしまうことが多々あったと言います。そんな折、インターネットで見つけたバリアフリー情報を頼りに家族で出かけることができた体験を通し、車いすでもあきらめなくていいと気付き、それ以来、
「メディアなどの協力も得ながらバリアフリー情報を、動画で発信してきたが、一人では限界がある。一人一人が情報の発信者となって、みんなでバリアフリー情報を共有できるアプリがつくれないだろうか」
と考えるようになったそうです。そんな彼女の強い味方となったのが、「テクノロジーを活用して障害者に社会参画を」という視点を持つオリィさんでした。織田さんは
「進行性の病気を抱える私は自ら進行の段階を体験できます。そうした過程をオリィさんに社会で活かしてもらうことで、障害があってもなくてもフラットに生きられる共生社会をつくりたい」
と未来への思いを語ります。

織田さんとオリィさんらは、2015年3月、テクノロジーを活用して、よりよい社会を作るアイディアを募集する「Googleインパクトチャレンジ」に「一人一人が情報の発信者となって、みんなでバリアフリー情報を共有できるアプリ」という構想をもってエントリーしました。結果、グランプリを獲得して走り出したのが「WheeLog!アプリ」です。そしていまこのプロジェクトは多くのボランティアや支援者を巻き込み、社会を変えるインパクトへと育ちつつあります。

「2015年3月、Googleインパクトチャレンジでアプリのプランを発表し、5,000万円という大きな支援金を得た際、今後どこよりもきちんと活動したいと思いました」
と、織田さんは当時を振り返ります。
「WheeLog!アプリ」は当初、織田さんが代表を務めるNPO法人 PADMとして運営をスタートしましたが、2018年より、一般社団法WheeLogに継承されました。こうした非営利団体にとって、ネックとなるのはその運営費。一時的な資金を得たとはいえ、組織をよりサステナブルにしていくためには、寄付や助成だけに頼るのではなく、団体として利益を生み出すことの必要性を強く感じ、事業化についても考えていたそうです。
「私自身もっと人の役に立ちたいと思っています。いろいろな思いを“車いすでもあきらめない世界”という、団体の理念に詰め込んでいますが、すでに多くの人を巻き込んでいるこの組織をサステナブルなものにするために、集めたデータの利活用や、教育プログラムの提供などの事業を推進しなければと考えています」
(織田さん)。

PROFILE

織田 友理子さん(左)、吉藤 オリィさん(右)

織田 友理子(おだ ゆりこ)

一般社団法人WheeLog 代表/最高経営責任者
Chief Executive Officer (CEO)
アプリ発案者。車椅子ユーザーとしての視点から、必要な情報や機能面での仕様作成及び広報活動などを行う。2000年推定発症、2002年「遠位型ミオパチー」と診断を受ける。一児の母。2016年ユースリーダー賞受賞。著書『ひとりじゃないから、大丈夫。』(鳳書院)、DVD『Walker「私」の道』(ブロックス)他。東京都福祉のまちづくり推進協議会 専門部会委員、総務省地域情報化アドバイザーなども務めてる。

吉藤 オリィ(よしふじ おりぃ)

一般社団法人WheeLog 最高知識責任者
Chief Knowledge Officer (CKO)
株式会社オリィ研究所 代表取締役所長。
アプリ開発では、起業家・開発者としての視点から開発全般に対する助言、そしてイベント開催時の企画などを行う。小学5年~中学2年まで不登校。2005年、電動車椅子の新機構発明により科学技術の国際大会ISEF Grand Award 3thを受賞。2009年から対孤独用分身ロボットの研究に取組、コミュニケーションロボット「OriHime」を発表。現在はデジタルハリウッド大学特任教授も務める。 著書『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)、『サイボーグ時代』(きずな出版)

テクノロジーのそばに
「人が自分の可能性に気付ける隙間」をつくる

「WheeLog!アプリ」を通して目指したかった社会について、オリィさんは次のように説明します。
「例えば介護の現場では、これまでテクノロジーの活用というと、人手不足や重労働といった介護する側の視点ばかりで、介護される側の視点がありませんでした。私自身、3年半不登校という時期を経験し、サポートを受けてばかりで自分は何もできないというアンバランスさを、とてもつらく感じていました」。
支援の場にありがちな「支援する側・される側という構造を崩したかった」というオリィさんが理想とするのは、適材適所社会。それはみんなに役割があり、居場所がある社会です。オリィさんが自分の場所をこの社会に見つけたきっかけは、折り紙という特技でした。
「折り紙を折ってみせると喜んでくれる人がいる。自分も誰かを喜ばせることができる。その思いが生きやすさに繋がりました」
(オリィさん)。
そんな想いを込めた「WheeLog!アプリ」は、これまでのボランティアにありがちだった支援する側とされる側という構図に大きな変化をもたらしました。

高校時代よりテクノロジーを駆使した電動車椅子の製作に関わるオリィさんですが、
「どんなにテクノロジーが発達しても、そもそも外出する目的が無ければ人はそこに向かいません。そのため、“行きたい”という思いを大切にしてもらうことが必要」
と、テクノロジーだけでは限界があることを強調します。
「誰の手助けも必要としないテクノロジーには興味がありません。テクノロジーのそばで、人が自分にも何かできることがあると気付き、何かしたくなることが大切。ボランティアに興味なんてなかったけど、そこにいて、何かしてみたら楽しかった。自分に何か新たな興味や関心が湧いてくる。そんなテクノロジーに興味があります」
(オリィさん)。

「「WheeLog!アプリ」のユーザーは車いすのユーザーさんだけではありません。多くの健常者のボランティアの皆さんが情報投稿など協力してくださっています。そして、車いすのユーザーさんも、自分の投稿した情報が他の誰かの役に立つという経験を重ねられます」
という織田さんの言葉通り、テクノロジーを活用しつつも、ちょっとした手助けが誰かの役に立ち、もっとやってみたい、そんな実感をユーザー同士が共有できるのが「WheeLog!アプリ」の特徴なのかもしれません。

ボランティアは「楽しさ+自己実現」の場

多くの方にボランティアとして参加してもらうために必要なことは、「楽しさ」だと織田さんは言います。そのため、WheeLogでは、誰もが参加できる楽しいイベントをオリィさんが中心となって設計しています。その一つが、車いすユーザーと一緒に街のバリアフリーを体験する「街歩きイベント」です。このイベントも多くのボランティアや協賛企業によって支えられますが、その一人が司会進行を務めるジョンソンさんです。
「イベントに集まる方は、最初は見ている方向がバラバラです。その方向を整えてあげるのが僕の役割」
(ジョンソンさん)
と話すように、パワー全開のトークが初対面同士の気持ちを温め、盛り上げます。車いすに乗って街を歩くだけではなく、チームごとにミッションが与えられたり、景品が用意されていたりと参加者が「その気になる」仕掛けが多く用意されていますが、
「これもやってみよう、次に生かしてみようという気持ちで、トライ&エラーを繰り返した結果、楽しんでもらえるようになりました」
とオリィさんが説明するように、数々の工夫を重ねてきたことがわかります。

WheeLogの運営メンバーとして団体をサポートする荒井雅代さんは、こうしたイベントの意義について次のように説明します。
「アプリにはまだ改善点が多々あります。だからこそ、ユーザーが飽きないように、そして離れないように補う何かが必要。それはユーザー同士のつながりを強くすることだと考えています。アプリは完全ではないけど、この活動に参加していると楽しい、イベントで顔を合わせる人からの生の情報が入るという新たな価値をイベントやオフ会などを通して見つけてもらえたらと思っています。そしていま考えているのは個々の夢の実現。WheeLogに関わる人は地元を優しい街にしたい、自分たちのことを知ってもらいたい、子どもたちの居場所づくりをしたいなど、熱い思いを持っています。だからこそ、ボランティアの皆さんがWheeLogを通してやりたいことが実現できる、自己成長できる、やりたいことが見つかるなど、参加のモチベーションにつながる仕掛けづくりをしていきたいと思います」。

「車いすにまずは乗ってみてください」と織田さんが勧めるように、車いすに乗ってみることで、当事者目線となり、どうやったらサポートできるかを考えることができる。そこがすべてのスタートとなるため、まずは相手と同じ目線の高さに立つことがボランティア参加の一歩なのだとか。「これからは、できないことが価値に変わる。困っていても、目的があれば何とかせざるを得ません。だからまず、誰かが何かに困っていることに気付くことが必要です」
(オリィさん)。

一般社団法人WheeLog(ウィーログ)
設立:2018年
代表理事:織田友理子
住所:東京都千代田区九段北1-15-2九段坂パークビル4階M&Kコンサルタンツ内
URL:https://www.wheelog.com/

VOICE(参加者の声)

安田 恭子さんのVOICE

もともとはイベントのお手伝いを自分のペースで行う程度でしたが、今は観光庁のプロジェクトでオリンピック・パラリンピックに向け、飲食店のバリアフリー調査に企画から携わるなど、ボランティア活動の幅が広がりました。

西野 英司さんのVOICE

はじめはアプリユーザーでしたが、イベントなどを手伝うようになってからは、様々な方と交流するようになりました。SNSのアクティブユーザーになり、まさにソーシャルに開かれた感じです。そして何より外出することが多くなりました。

ジョンソンさんのVOICE

イベントに参加してその場でボランティアをすることも大事ですが、その場だけで終わってはもったいない。だからこそ、自分が得意なことをできる範囲で、些細なことでもいいので続けられることを探すのが大切だと思っています。

MESSAGE 「車いすに乗って遊んでみて!きっと何かが変わります。」一般社団法人 WheeLog 代表 織田友理子 「これからは「できないこと」が価値に変わる時代。」一般社団法人 WheeLog 最高知識責任者 吉藤オリィ

MESSAGE 「車いすに乗って遊んでみて!きっと何かが変わります。」一般社団法人 WheeLog 代表 織田友理子 「これからは「できないこと」が価値に変わる時代。」一般社団法人 WheeLog 最高知識責任者 吉藤オリィ
MESSAGE 「車いすに乗って遊んでみて!きっと何かが変わります。」一般社団法人 WheeLog 代表 織田友理子 「これからは「できないこと」が価値に変わる時代。」一般社団法人 WheeLog 最高知識責任者 吉藤オリィ