活動のヒント

  • 医療・福祉・人権
  • 子ども・教育
  • 文化・芸術
  • 環境・動物愛護
  • 地域活性・まちづくり・観光
  • 災害救援・地域安全活動
  • 多文化共生・国際協力
  • その他
  • スポーツ

ボランティアで多様な人とつながり、豊かな関係づくりを【中村陽一さん】

掲載日:2020.03.27

PROFILE

中村 陽一さん

中村 陽一(なかむら よういち)

立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科 教授
社会デザイン研究所長。NPO法人やソーシャルビジネスの運営サポート等、現場と大学院を往復しつつ実践的研究、政策提言等に取り組む。ニッポン放送「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design」パーソナリティ。ジャズライブでのリーディングや演劇プロデュースなど幅広い活動も行う。専門分野は、「社会デザイン学」「ソーシャルビジネス」「コミュニティーデザイン」「NPO/市民活動論」ほか

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、多くの人がボランティアとして活躍することが見込まれます。これが一過性のブームにとどまることなく文化として定着し、多くの方が「共助社会」のサポーターとなることに期待が寄せられています。そこで、これからボランティアを始めようとする方や、受け入れを考えている方々に向けた、共助社会を理解するためのヒントやボランティアの可能性について、社会デザイン学を専門とし、NGO/NPOや市民活動に詳しい、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授の中村陽一さんに伺いました。

自分には何ができるかと
考えることが共助社会の第一歩

最近、共助社会という言葉をよく耳にするようになりました。現状をどのようにご覧になっていますか。

共助社会については、「共に助けあう」という言葉の響きから、何となく「いいね」と共感する人が多いのではないでしょうか。しかし、具体的にどう行動すればいいのか、どうやったらそうした社会をつくることができるのかといった、一歩踏み込んだ議論にはなかなか至っていません。

一方で議論の場に上るのは、「何となく」イメージされている共助社会づくりの手段となりうる、まちづくりやコミュニティ形成、そしてボランティアなどのノウハウやスキルといった「テクニック」の部分です。このように、共助社会への理解については、まだまだ一般論や抽象論に留まっている。つまり「言葉としては理解されているけれど…」というのが現状だと感じています。

では、私たち生活者が共助社会を考え、実現する上で大切なことは何でしょうか。

内閣府は、共助社会について「個人の多様な価値観や意思が尊重されながら、新たな『つながり』が構築され、全員で作り上げていく社会」と説明しています。私たちが生活する社会には様々な利害関係や価値観が存在し、多様な人たちが暮らしています。そのため、ダイバーシティやインクルージョンという言葉も頻繁に聞かれるようになりましたが、そもそもそうした社会は、簡単に実現できるものではないという認識に立つ必要があります。

他者と生きる上で、「話し合えばわかる」は手段として十分ではなく、社会の中で、私たちが多様な人たちと共助社会を築いていくには、どんな壁があり、それをどうやって乗り越えなければいけないのか、という視点を持つことが大切です。

国連が2030年に向けた取組として定めたSDGs(持続可能な開発目標)にも注目が集まっていますが、このゴールを達成するために大切なことは、最終的に私たちひとり一人に何が出来るのかということをきちんと示すことです。これと同様に、私たちひとり一人がどのような役割を果たしていくのか、そこをしっかりと考える場を実際に形成していくことが、共助社会実現の第一歩となります。

PROFILE

中村 陽一さん

中村 陽一(なかむら よういち)

立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科 教授
社会デザイン研究所長。NPO法人やソーシャルビジネスの運営サポート等、現場と大学院を往復しつつ実践的研究、政策提言等に取り組む。ニッポン放送「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design」パーソナリティ。ジャズライブでのリーディングや演劇プロデュースなど幅広い活動も行う。専門分野は、「社会デザイン学」「ソーシャルビジネス」「コミュニティーデザイン」「NPO/市民活動論」ほか

共助が困難な社会だからこそ、
現代にマッチした共助社会を

共助という概念は昔からありますが、改めて見直されているのは何故でしょうか。

昔は共助といえば「お互い様」という意識でした。地域のなかで助けてもらうこともあれば、助けることもある。困っている時はお互い様であると。しかし今、特に都市圏では、この「お互い」の有様が大きく変化しています。隣同士の顔が見え、経済格差も少ない社会ではあたりまえだった共助という考えが、格差社会とも言われる現代社会では見えづらくなり、実際に弊害が起こっています。

2019年、台風による風水害が都市部を襲い、東京では頑丈なタワーマンションで停電や断水が発生し、エレベーターが使えず高層階からの移動が困難になるという問題が発生しました。今後も同規模の災害が起こってもおかしくないと言われていますが、非常時においては行政の対応を待つだけではなく、住民同士がいかに支え合うかということをしっかりと検討し、危機管理としても共助しあえるコミュニティをつくる必要性を、私たちに痛感させるきっかけとなった出来事だったと言えます。

お互いが見えづらい現代社会では、共助社会をどのように実現すべきでしょうか。

経済状況にも格差が生じ、暮らし方や価値観が違う人たち同士が暮らす地域社会のなかで、それぞれが感じている課題も必要とするものも異なる現代においては、必ずしも公助がすべてのニーズを満たすとは限りません。それを補うものとして、今後ますます共助の重要性が増すと考えられます。しかし、多様化した社会では、共助という共通概念が成り立ちにくいのです。家族構成や地域の繋がりや付き合い方、そして働き方や暮らし方が大きく変化していることを踏まえた上で、現代社会のニーズに合う共助社会の在り方を、今後模索していかなければならないでしょう。

ボランティアは人と人が豊かにつながる場を与えてくれる

共助社会を考える上でボランティアが重視されるのはどうしてでしょうか。

共助社会は「新たな『つながり』が構築され、全員で作り上げていく社会」と言われるように、他者と積極的に関わりつながることが、共助社会参加への第一歩です。

昨今、市場経済一本やりですべての課題を解決することは難しいことに、誰もが気づき始めています。一方で、より豊かな人間関係や信頼が重視されるようになってきました。つまり人間本来の価値が問われるよう社会が進化しているとも言えます。様々な課題を抱える日本社会の中では、人と人がお金ではないところでつながり協働していくことが必要なのです。そして、そういう場所を用意してくれる機会の一つがボランティアです。

ボランティアの場を提供・サポートするNPOや中間支援団体にはどのようなことが期待されていますか。

ボランティアを持続可能なものにするために一番重要なのは、事後のフォローアップです。そのため、ボランティアを受け入れる側は、ボランティア参加者が、事後に集まってボランティアに参加して感じたことを対話できる機会を設けると良いでしょう。同じボランティアを経験しても、参加者一人ひとり感じ方が違うため、その時こそ「他を知る」絶好の機会となるわけです。さらに、そうした活動の記録を残すことも大切です。こうした記録が、ポスト2020のレガシーとなっていくのです。NPOや中間支援団体には、そうしたサポート体制を考え、フォローしていくことが今後ますます期待されます。

また、様々な立場の人が参加するボランティアの場では、それぞれのリソースをより有効に管理・調整したり、参加者の相談役になったりするコーディネーターの育成や活用も重要です。

最後にこれからボランティアに参加しようと考える方にメッセージをお願いします。

様々な課題を抱える現代においても、楽しく暮らしている人を見ると、他者との豊かな関係性を築いていたり、自分の居場所=サードプレイスを持っていたりすることが多いように感じます。まさにボランティアはそうした機会を提供してくれます。これからボランティアを始めようと考える皆さんが、ボランティアを通じ、他者とつながり協働するなかで他を知ることが、ダイバーシティ&インクルージョン、そして共助社会の実現につながっていきます。またボランティア活動そのものが、自分自身の可能性を新たに広げるきっかけになるでしょう。