活動のヒント
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自宅で気軽にできる「絵本を届ける運動」【公益社団法人シャンティ国際ボランティア会】
絵本が不足している国や地域の子どものために、日本の絵本に現地語のシールを貼り翻訳し、これまでに30万冊以上を送ってきた「絵本を届ける運動」。自宅などで自分の好きな時間に参加できるという理由で人気を集めています。活動を運営する公益社団法人シャンティ国際ボランティア会で、詳しい話を聞きました。
PROFILE
池永 美貴さん(左)、塙 香織さん(中央)召田 安宏さん(右)
池永 美貴(いけなが みき)
1976年、東京都生まれ。
会社員。就業先で行われた「絵本を届ける運動」の翻訳シール貼りのイベントに参加したことがきっかけで、シャンティ国際ボランティア会と出会う。その後、個人で「絵本を届ける運動」へ参加し、年に数回、有給休暇消化(午後半休が多い)で千駄ヶ谷の事務所でクラフトエイドの検品作業のお手伝いにも参加。
塙 香織(はなわ かおり)
1977年、兵庫県生まれ。
2016年シャンティ国際ボランティア会入職。パートスタッフとして絵本を届ける運動を担当。子育てが一区切りしもっと広く社会貢献したいと考え、現在フルタイム勤務。絵本の発注、出荷、船積み等実務を担当。
召田 安宏(めすだ やすひろ)
1984年、東京都生まれ。
学生の頃からNGOの活動にボランティアとして参加し、大学卒業後、会社員、他のNGOを経て2016年シャンティ国際ボランティア会へ入職。以来、広報担当として、広報誌や印刷物の制作、ウェブサイト、イベントなどを担当。
絵本が不足している国や地域の子どものために、日本の絵本に現地語のシールを貼り翻訳し、これまでに30万冊以上を送ってきた「絵本を届ける運動」。自宅などで自分の好きな時間に参加できるという理由で人気を集めています。活動を運営する公益社団法人シャンティ国際ボランティア会で、詳しい話を聞きました。
自分のペースで
翻訳絵本作りを楽しめる
「翻訳シールは、角が丸くなっている方が上で、直線になっているのが下なんです。見慣れない文字ですから、どちらが上なのか難しいのですけど、その通りに貼れば、子どもたちが逆さまに読む心配もありません」
絵本作りのコツについて、ボランティアとして約100冊 もの翻訳絵本を手掛けてきた池永美貴(いけながみき)さんが説明してくれました。活動をするのは例年、春や秋の連休の時期。人出の多い場所への旅行は避けて、自宅でゆっくり一冊一冊の絵本と向き合っているそうです。
「絵本を届ける運動」に申し込むと東京にあるシャンティの事務所から翻訳シールと絵本などが送られてきます。参加費は1セット3000円。参加者はシールを貼り終えた本をシャンティの事務所に返送し、その後全国から集まった1年分の翻訳絵本を、シャンティが活動を行っているアジア各国、各地域へ届ける仕組みです。
参加者はインターネットで申し込むと、好きな絵本のタイトルを選択することができます。そこで本を指定せずに「おまかせ」を選んで、どんな絵本が届くのかを楽しみにするのが池永さんのスタイルです。
新しい絵本との出会いはいつも新鮮で、ほっこりと心が満たされる思いがするそう。
「この絵はキレイだなとか、童心に帰るような気持ちで、絵本に没頭してしまうんです。普段の仕事ではパソコンばかり使っているので、手を動かすのはリフレッシュにもなりますね」
と、池永さんは笑顔で語ってくれました。
1日に1冊ぐらいのペースで作業を進めますが、時間やノルマは決めていません。自分の好きな時に気の向くままに、子どもの頃と同じような感覚で、絵本との時間を過ごしています。
「仕事をしていると、現地に赴いてボランティア活動をするのはハードルが高いですし、長期の休みを取ることも難しい。この活動は、いつどこに行かなきゃいけないという制約がないので、私のペースで好きな時間にできるというのが魅力です。それこそ“#ちょいボラ”ですね」
PROFILE
池永 美貴さん(左)、塙 香織さん(中央)召田 安宏さん(右)
池永 美貴(いけなが みき)
1976年、東京都生まれ。
会社員。就業先で行われた「絵本を届ける運動」の翻訳シール貼りのイベントに参加したことがきっかけで、シャンティ国際ボランティア会と出会う。その後、個人で「絵本を届ける運動」へ参加し、年に数回、有給休暇消化(午後半休が多い)で千駄ヶ谷の事務所でクラフトエイドの検品作業のお手伝いにも参加。
塙 香織(はなわ かおり)
1977年、兵庫県生まれ。
2016年シャンティ国際ボランティア会入職。パートスタッフとして絵本を届ける運動を担当。子育てが一区切りしもっと広く社会貢献したいと考え、現在フルタイム勤務。絵本の発注、出荷、船積み等実務を担当。
召田 安宏(めすだ やすひろ)
1984年、東京都生まれ。
学生の頃からNGOの活動にボランティアとして参加し、大学卒業後、会社員、他のNGOを経て2016年シャンティ国際ボランティア会へ入職。以来、広報担当として、広報誌や印刷物の制作、ウェブサイト、イベントなどを担当。
絵本に貼り付ける翻訳シール
「絵本を届ける運動」に参加されている池永美貴さん
「絵本を届ける運動」に申し込むと届く絵本セット
(絵本、翻訳シール、あいうえお表など)
「だれのじてんしゃ」 作・絵:高畠純(たかはたじゅん)(フレーベル館)
子どもたちの未来をひらく「絵本の力」
シャンティ国際ボランティア会は、「共に生き、共に学ぶ」ことのできる平和な社会の実現を目指して1981年に設立。現在、活動は海外6カ国8地域に広がり、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、アフガニスタン、ミャンマー、ネパール、ミャンマー国境で、図書館活動や学校建設、国内外での緊急救援などに取り組んでいます。
教育支援活動の中でも、人(教員や図書館司書などの人材育成)、場所(図書館建設など)と並ぶ柱となるのが「本」。子どもたちが本の力を通じて、困難な状況を乗り越えて未来に向かって歩みだすのをサポートしています。
1999年にスタートした「絵本を届ける運動」では、これまでに延べ26万人以上 のボランティアが翻訳絵本作りに参加し、268タイトル、33万316冊 をシャンティが活動を行う5カ国6地域に届けてきました。ほかにも、現地での絵本や紙芝居の出版や、移動図書館などの活動を展開中です。
「お菓子より絵本がいい。お菓子はすぐになくなるけど、絵本は何度でも読めるから」
これは活動が始まったばかりの頃、カンボジア難民キャンプで、ある少女が言った言葉です。子どもたちにとって必要なのは、衣食住だけではありません。自分たちの文化や知らなかった世界のことを学んだり、たくさんの物語や言葉を知ったり、時間を忘れて夢中になることも大切なのです。
絵本の持つ力について、
「ストーリーや登場人物、絵柄や色づかい、擬音語などの魅力がたくさんあって、それが想像力や感性を磨くという点で、子どもたちへの影響は非常に大きいです。難民キャンプで暮らしている子どもたちに『外の世界には海があるんだ』ということを伝えたり、大切なことをわかりやすく説明してくれるのも絵本の役割。まだ文字を読めない子どもたちに読み聞かせができるのも、絵本ならではの特徴ですね」
とシャンティの広報担当の召田安宏(めすだやすひろ)さんは説明します。
シャンティは、毎月決まった金額を寄付する「アジアの図書館サポーター」やアジアの女性が伝統文化や技術を生かして手仕事でつくったものを販売するフェアトレード事業「クラフトエイド」など、日本にいながら活動を応援できる方法がいくつもあり、「絵本を届ける運動」にも幅広い層の人々が参加しているそうです。
企業や学校での活動で参加する人もいれば、子育てを終えた人や定年退職した人もいて、参加のきっかけは様々。
「活動は絵本を通じて社会とつながるきっかけになります。誰かとつながりたいという方にも、無理なく参加していただくことができますね」
と召田さん。 活動も20年を経過すると、かつて親と翻訳絵本作りをした子どもが成長して再び参加するケースも。世代を超えたつながりが広がっています。
シャンティから絵本を受け取ったラオスの子どもたち
「ぐりとぐら」「ぐりとぐらのおきゃくさま」作:中川李枝子 絵:大村百合子(福音館書店)
(c)Shanti Volunteer Association / Yoshifumi
Kawabata
絵本を抱くカンボジアの女の子
(c)Shanti Volunteer Association / Yoshifumi Kawabata
シャンティ国際ボランティア会 広報担当の召田安宏さん
池永さんも愛用しているクラフトエイドのモン族の刺繡(ししゅう)が入ったポーチ
「幸せな時間を届けたい」という思い
2020年度の「絵本を届ける運動」は、カレン語(タイ国境の難民キャンプ)、ラオス語(ラオス)、クメール語(カンボジア)、ビルマ語(ミャンマー、タイのミャンマー移民)、ダリ語(アフガニスタン)の絵本を16499冊届ける予定。『はらぺこあおむし』(偕成社)、『そらいろのたね』(福音館書店)、『けんかのきもち』(ポプラ社)といった長く愛されている物語や、動物や自然現象をわかりやすく解説した科学絵本、平和や環境問題をテーマにした絵本も含まれています。
アジアの子どもたちに届ける絵本は、どんな絵本でもいいというわけではありません。現地事務所からのリクエストを通じて、絵本のテーマ・ジャンルや数などを計画したうえで、必要な絵本が届けられます。
担当スタッフの塙香織(はなわかおり)さんの大切な仕事が、絵本探しです。書店や図書館を巡り、リクエストに合ったものを見つけていきます。
「文字が細かくてシールを貼れないものは適しません。国によっては、女の子がスカート姿で足が見えているのがダメだったり、文化的な背景を考慮しなければならない場合もあります」
と塙さんは話します。
一番重要なのが、絵本の著作権者からの承諾を得られるかどうか。シールを貼ることは著作物の改変になるため、出版社を通して翻訳やシール貼り、現地での使用などに関する許可を得ます。そうやって条件をクリアした絵本とシールが、全国のボランティアの元に届けられるのです。
翻訳シールの貼り終わった絵本が返送されると「絵本ドクター」と呼ばれる熟練のボランティアたちが、シールが正しく貼られているかをチェック。段ボールに詰められた絵本は毎年2月頃、スタッフや絵本作りをしたボランティアの人たちによって運び出され、各国へと発送されます。
高校生の娘を持つ塙さんは、自身が子育てをする中で絵本の魅力に気付いたそうです。
「娘は『バムとケロ』シリーズ(文溪堂)が好きで、寝かしつける時に読み聞かせをしていました。私は運良く日本に生まれ、子どもと寄り添って本を読むという、幸せな時間を過ごすことができました」
と語ります。
「シャンティの活動を通じて、あるミャンマーのお母さんが文字を読めないので、文字を覚えた子どもがお母さんに読み聞かせをするという場面を知りました。子どもはきっと『お母さんを喜ばせたい』という気持ちで絵本を読み、お母さんは『この子は私より幸せになってほしい』と望まれているはずです。そんなお母さん方にも、何らかの形で『幸せだな』と思える時間を、本を通して届けられたらいいなと思うのです」
ラオス語の翻訳シールが貼られた絵本
「およぐ」 作・絵:なかのひろたか(福音館書店)
シャンティ国際ボランティア会 「絵本を届ける運動」担当の塙香織さん
現地の子どもたちとつながっている実感
現地で活動するボランティアとは違い、絵本作りに参加した人たちと絵本を受け取った子どもたちが直接コミュニケーションできる機会は少ないです。そのため、シャンティでは活動報告をこまめに行い、絵本と触れ合った子どもたちの喜びの声や写真などを参加者に紹介しています。
絵本作りの参加者と子どもたちを結ぶ、もう一つの手段が、絵本の巻末に貼る「お名前シール」です。参加者は絵本と一緒に届く各言語の「あいうえお表」を見ながら、絵本作りの最後に自分の名前やニックネームを日本語と現地語でシールに記入します。それによって、絵本を手にした現地の子どもたちは、遠い国から届けてくれた人の名前を知ることができるのです。
自分が手掛けたという証が絵本に残り、子どもたちに届くということは、ボランティアを「やって良かった」という達成感につながります。ボランティアとして参加している池永さんも
「自分が手を動かして作ったものが、目に見える形で相手にちゃんと届いていること。それは、絵本作りを続けたいと思う理由の一つですね。はさみを持って切る作業が苦にならなければ、誰でも好きな時にできるボランティア。一冊から手軽に申し込めるので、始めやすいと思います」
と言います。
参加費を自分で負担する形式のボランティアですが、税制上の優遇措置があり、個人の場合は確定申告で寄付金控除が受けられます。
池永さんは
「ふるさと納税の制度を利用する方がたくさんいらしゃる今、返礼品をもらうのと同じように、ボランティアを体験して成果物を残すというのも、選択肢の一つではないでしょうか」
と提案してくれました。
公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会
設立:1981年
会長:若林恭英
住所:東京都新宿区大京町31 慈母会館2・3階
URL:https://sva.or.jp/
翻訳シールを貼った人の名前を書ける「お名前シール」
絵本に貼りつける「翻訳シール」をはさみで切りとっている様子