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「令和の駆け込み寺」めざす増田真紀子さん 地域のつながりを強める

2024.12.16
 茨城県ひたちなか市の正安寺に坊守(ぼうもり)として勤める増田真紀子さん(48)。子どもや悩みを抱える人たちを支援し、地域の連携を図るNPO法人「ただいま」を、2022年2月に立ち上げた。住職で夫の直(なお)さんとともに代表理事となり、「令和の駆け込み寺」を目指している。
 5キロほど離れた同市の清心寺に生まれた。高校生の時、正安寺の住職を務めていた祖父が亡くなり、二つの寺を父が掛け持ちした。それぞれ寺は、長女である姉と長男の弟が継ぐはずだった。
 東京薬科大に通い、DNAの研究に興味を持ち、その方面に就こうと思っていた。ところが姉が会社員と結婚。自ら仏門に入るため、東京薬科大を卒業後に同朋大(名古屋市中村区)に入学した。
 「跡取りとして育っていないから『え、私が?』という感じだった。でも、就職氷河期だったし、同朋大で夫と知り合えたから良かったかな」と笑う。
 02年、夫婦で正安寺を継いだ。転機はその9年後に訪れた。東日本大震災による原発事故。子育て中の人たちが家にこもり、放射性物質の影響を心配していた。自身の娘も園児だったこともあり、子どもを遊ばせながらおしゃべりしたり、食事したりできる場があれば、と考えた。
 栄養士の資格を持つ那珂市の萩野谷敬子さんに協力してもらい、直さんと3人で15年に寺のホールで子育てカフェを開いた。月に1回だったカフェは、「なないろカフェ」と名を変え、今は未就園児とその保護者のために週3回開いている。
 カフェ運営を通して、子どもたちに学校以外の居場所がとても少ないことを知った。市に相談し、市の子どもの居場所運営支援事業として、19年に市立中根小学校の5、6年生を対象とした「てらこや」を始めた。さらに、21年には学区を問わず小中学生を対象としたフリースクールを立ち上げた。現在、日立や水戸などを含めた市内外24人の子どもたちが登録し、週3回利用している。他人と比べられるのが苦手だったり、忙しい親に遠慮して悩みを相談できなかったりする子が多い。
 「スタッフはひたすら見守る。公園で遊んでいる子どもが困った時に話しかけるおばちゃんみたいな感じ」
 提供する野菜や食料品は、寄付で賄われている。これらを残さず有効活用しようと、ひとり親家庭や独居老人など食に困っている人たちに配布する事業も始めた。
 その利用者の中から調理もしてほしいという声が上がり、誰でも利用できる地域食堂「ただいましょくどう」を開いた。奇数月の第3日曜に、カレーライス150食を無料で提供している。
 こうした食の提供も含めてNPOの活動は五つの事業にわたり、利用者は年々増加傾向だ。その活動が認められ、このほど、いばらきチャレンジアワード「支え合い2024」で最高賞の県知事賞に選ばれた。
 「ボランティア精神だけでは無理だから、継続するために法人化した。それでも活動は寄付がないと成り立たない」
 地元の中根小学校以外の市内の小中学校との連携も図りたいし、高校生や大学生のネットワーク作りの場も提供したい。こうした活動が地域のつながりを強めると信じている。「寺は困りごとなどの相談に乗る場所だから」
 寺の敷地内に「ただいまこどもセンター」(仮称)を建設することにした。県産木材を使った2階建てで、来年6月の竣工(しゅんこう)予定だ。団体の活動拠点であり、子どもや若い人たちが集まれる場所になれば、と望む。(ライター・神野泰司)