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【長谷川ミラさん】気軽にできる「いいね」が社会を動かす

掲載日:2023.02.21

「いま生きている世の中で何が起きているか、知らないとかっこ悪いと思うんです」。モデルの長谷川ミラさん(25)はさらりと言い切ります。

自身でサステナブルな素材を使ったファッションブランドを手がけているミラさんは、環境問題やジェンダー問題など社会課題について、SNSやラジオ、雑誌などで積極的に発信を続けています。ミラさん流の社会との向き合い方について聞きました。

「社会問題を知らないことは恥ずかしい」そう気づかせてくれたロンドン留学

――社会問題に目を向けるようになったきっかけを教えてください。

5年前、ファッションを学ぶためにロンドンに留学しましたが、ロンドンでは社会問題が当たり前に日常の中で議論されていました。

大学は学生の約半数が海外からの留学生。みんな自分の国や社会が抱える問題について、自分の意見を主張していました。私も社会で何が起きているのか知っているつもりでしたが、日本社会についても、私より現地のクラスメートの方が詳しくてショックを受けました。例えば、「日本はジェンダーギャップ指数が低いよね」とか「日本では性的なアニメの広告が議論になることもあるよね」とか。

大学だけでなく、街なかでも同様でした。当時のイギリスはブレグジット(EU離脱)で国が揺れていた時期で、カフェで隣のカップルがEU離脱について議論していたり、タクシーの運転手からもEU離脱についてどう思うか聞かれたり。若い人もきちんと世の中と向き合っていて、「このままで日本は大丈夫か」と感じました。気になったことはリサーチしてSNSで発信してみようと思ったのは、そこからですね。私と同世代の人たちに、同じような恥ずかしい体験をしてほしくないっていう思いもありました。

――環境負荷の低減をめざすブランド「JAM apparel(ジャム・アパレル)」も運営しています。

留学をして、アパレルが環境に負荷をかけていることを学びました。例えば、Tシャツを1枚作るために、大量の水が使われています。なので、私のブランドの素材には、節水型のオーガニックコットンや、リサイクル生地を選ぶようにしています。また、長く使ってもらえるように、デザインもなるべくベーシックなものにしています。

お客様には「似たような服をお持ちだったら、全然買わないでくださいね!」とよく言っています(笑)。本当は何も買わないのが一番サステナブルではありますが、環境や労働環境に配慮していない服を買うよりは、私たちのアイテムを選んでほしいと思っています。

――ファッションを通じて実現させたいことは何ですか。

サステナブルな素材が増えてきた一方で、ファストファッションの人気も健在だと感じています。衝動買いじゃなくて、まずは持っている洋服を大事にしてもらいたい。買ったら長く使ってほしいです。

もともと自分もファッションが大好きで、自分の好きな洋服に袖を通した瞬間の沸き上がってくるハッピーな感情って、一種の魔法ですよね。まずはファッションを好きになってもらう。そこから、素材はどうやって作られているのかということや、洋服を作る環境負荷についても興味を持ってもらいたいです。私たちの商品や発信が刺激になって、色々なブランドがサステナブルな活動を広げてくれることが理想です。ゆくゆくは、自分たちのブランドが必要なくなる状況になればいいと思ってやっています。

「渋谷に行く」感覚でOK 気になったら「ボランティア」

――ミラさんは自分で現場に行き、取材やボランティア活動に積極的に関わっている姿が印象的です。

フェイクニュースも多い時代で、自分が何か発信するときは6つの媒体でリサーチすることを心がけています。それでも、外部の情報を引用しているだけでは発信力が弱いし、自分が見て、聞いたものを発信することを心がけています。

昨年、台風の被害から2カ月後の静岡県を取材しました。被災地はまだまだ支援を必要としていて、ボランティアさんも、「現状や活動を知ってほしい」とおっしゃっていました。災害直後のサポートだけでなく、継続的なボランティアの重要さを知ってほしいという思いで仲間と撮影し、YouTubeで発信しました。

災害は時間がたつとメディアの情報がなくなり、現場が知ってほしい情報が世の中に流れなくなります。ボランティアを必要としている現場があり、ボランティアをやりたい人がいても、それをつなぐ情報が流れていないと感じます。Z世代の人たちは、調べたいことを瞬時に情報収集して動きます。これからは、私たちが「ここでできるよ」って知らせたり、活動の場を用意したり、アクションを起こしやすくなるような「お知らせ係」のような役割をやりたいです。

――フットワークが軽いですね。活動の原動力は何ですか。

私にとっては、渋谷に行く感覚なんですよ。「気になるから行ってみよう」っていう気軽な気持ち。困っている人がいたら何かしなきゃというメンタリティーは、南アフリカ人の父の背中を見て教わりました。身長194センチのでっかいお父ちゃん。よく駅の階段で、知らない人のベビーカーを持ち上げてあげたり、荷物を持ってあげたりしていました。東日本大震災でも父は一人でボランティアに出て行きました。何も躊躇せず、気軽に何でもやってみる性格は父と似ていますね。

SNSの「いいね!」が社会を変える大きな力に

――「やりたい」という思いを行動につなげるコツはありますか。

最近、代々木公園で炊き出しのボランティアに参加しました。実は学生時代からずっと興味を持っていたのですが、たまたまインスタで情報が流れてきて、スケジュールが空いていたので初めて参加できました。代々木公園は子どもの頃の遊び場で、公園でホームレスの方々の暮らしを目にしたときは衝撃を受けたのを覚えています。

何かできることをやりたいと思ってはいたものの、ようやく25歳になって行動することができた。でも、これでいいと思います。できる時に、できる人が、やれる範囲でやればいい。無理に重い腰を上げる必要はなくて、チャンスとタイミングです!

――留学先で「恥ずかしい」と感じてから5年、社会に目を向けることについてどう思いますか。

私にとってニュースや情報がとても大事です。厳しい言い方をすれば、自分が生きている世の中を知ることは当たり前だし、知らないことは恥ずかしいしダサい。自分の会社の給料が上がらないとき、会社の業績や制度に無関心ではいられないですよね。国や社会も同じで、5年先、10年先、自分の国がどうなっているかは私たちにかかっています。「政治家がだらしない」って声も聞きますが、私たち国民が選んだ政治家です。私たちから「関心があるぞ」ってアピールすれば、政治家の背筋も伸びると信じています。

――暮らしの中で気軽にできるアクションはありますか。

今はSNSで発信している人がすごく多いし、ニュースもツイッターで次々と流れてきます。それに対して「いいね」を押したり、メッセージを付けてリツイートしたりすることで、数値として目に見えて貢献ができます。私のように活動や自分の意見をSNSで発信していると、悪い反応に目がいくことも。だから、「いいね」や応援のコメントをもらうと、むちゃくちゃ大きなパワーをもらえます。

マスメディアのニュースも同じで、コメントやリツイートの数が多いと、「人気な話題」としてメディアが取り上げます。世の中が芸能人のゴシップより社会問題への関心が高ければ、ニュースの内容も変わるはずです。ウクライナの状況が日々報道されるのも、世の中の関心が高いから。

「個」の力が積み重なれば、世の中を変える力があると信じています。無理なく、楽しく、アクションしてもらえたらうれしいです。