スペシャルインタビュー
一流アスリートから一般の人まで。スポーツ界を中心に幅広く「頑張る人」に寄り添う、元プロテニス選手でスポーツキャスターの松岡修造さん。「本気」で頑張ることの大切さを情熱的に私たちに届けてくれています。
東京2020オリンピックでは、日本代表選手団のJOC公式応援団長として、選手はもちろん、ボランティアなどとともに大会を見守り、応援し、盛り上げました。
その原動力はどこからくるのか。活動の先に見据えていることは何なのか。スポーツやボランティアの魅力は――。存分に聞きました。
応援には「人の心を変える力」がある
――松岡さんが頑張る人を「応援」する理由を教えてください。
もともと人を応援するのは好きでしたが、現役時代は結果を出さなければいけないので自分で自分を応援してました。現役を卒業した時、自分はもう十分に頑張った、という思いがありました。自分自身を応援することがなくなり、人を応援するようになったんですね。
人を応援するうちに、自分を応援するより人を応援することが自分に向いていると気づきました。僕にはテニスの才能より、人を応援する才能があるんだと思います。それだけでなく、応援することで相手から力をもらっていると感じています。自分のためにやっているとも言えますね。
――「応援」の魅力はどういうところにありますか。
自分が声をかけ、行動するだけでなく、さらにはみんなで一緒になって応援することは、「人の心を変える力になる」ということを実感しています。
応援するということは、その人の気持ちに寄り添うということです。頑張っている人を応援すると頑張っている気持ち、挫折を味わっている人を応援すると挫折する気持ちを共有することになります。たくさんの人の人生を共有しながら生きていくことになる。そこが「応援」の最も魅力的なところですね。
東京2020大会で浮き彫りになったスポーツの魅力
――東京2020大会は、新型コロナウイルスによる延期、無観客といった異例ずくめの中での開催でした。東京2020オリンピック日本代表選手団のJOC公式応援団長を務められた松岡さんは、会場ではどんな雰囲気を感じましたか。
選手、スタッフ、関係する全員が「本当にできるんだろうか」という気持ちでいっぱいでした。いつ「中止」と言われてもおかしくない。もう信じるしかない状態でした。
一番印象に残ったのは選手村です。本来は大会の中でも一番盛り上がっている、明るい場所であるはずが、東京2020大会では違いました。近寄り難い空気を感じるほど、重く、静まりかえった雰囲気でした。
「拍手はやめよう」「『がんばろう』と言うのはやめよう」「『メダル』と言うのもやめよう」。スタッフとの打ち合わせでは、そういう言葉が出ることもありました。
でも、その後ろ向きな雰囲気をすべて吹き飛ばしたのが、柔道男子60キロ級・高藤直寿選手の「金メダル1号」です。
あの瞬間、「感情を出していいんだ」「喜んでいいんだ」という気持ちになり、がらりと雰囲気が変わりました。
――コロナ禍という状況だったからこそ浮き彫りになったこともあったそうですね。
コロナ禍による延期、無観客という状況を前向きに捉えられた選手はほとんどいませんでした。なんのためにスポーツしてるのか、スポーツに価値があるのかわからない――そう感じていた選手が多くいました。
でも、それは逆に、応援してくれる人がいるからこそ自分はスポーツができているということに気づくきっかけにもなりました。応援してくれる人たちがいるからこそ、自分のパフォーマンスは成り立っている、やりがいがある、と。
コロナ禍以前には気づいているようで、ここまで深く感じてはいなかったでしょう。そのことに、選手も、僕自身も気づくことができました。以前より日々を大事に生きられている気がします。スポーツに対する向き合い方が真剣になった気がします。最後に原動力になるのは「人」だったんですね。
――大会には多くのボランティアも参加しました。コロナ禍による影響がある中で活動するボランティアと接して印象に残っていることはどういうことですか。
本来、ボランティアは自分がやりたいから、喜んでもらえるから、応援したいからする。たくさんの前向きな要素があるはずです。でも、今回はマイナスの要素がある状況下で携わらなければいけなかった。
そこを変えられたのは「やりがい」だったと思います。
ボランティアの人たちには、できることが限られた状況だったにもかかわらず「決められたものを指示通りにすることだけが自分の役割じゃない」という気概を感じました。
選手に喜んでもらうには何ができるだろう、と一人ひとりが考えて行動している様子が見て取れました。さまざまな規制があり、外に出られず、声援のない中で戦わなければならない選手を笑顔で迎え、話しかけていました。「ここにいる時はせめて明るい気持ちになってもらおう」と、選手が置かれている空気を少しでもプラスに変えようとするエネルギーがすごかったです。
ボランティアの人たちはみなさん「やってよかった」と言っていました。無観客だったからこそ、人と人との結びつきをより強く感じたのではないでしょうか。
――7月には「東京2020大会1周年記念セレモニー」が開かれ、松岡さんは司会を務めました。大会から1年を経て、今、どんなことを感じていますか。
海外からの大会の評価はとりわけ高くて、取材をした多くの人たちから「あの状況下でできたのは日本、東京だったから」という声を聞きました。
困難な状況下で大会を成し遂げられた力、心をひとつにできた力は間違いなく日本の人たちが作り上げたものです。特にボランティアをはじめとするサポート、つまり日本人のおもてなしの力がすごく発揮された大会だったと思います。
東京2020大会の魂はパリ、ロサンゼルスとこれからの大会に受け継がれ、ずっと評価されていくでしょうし、日本のみなさんにもそのことをもっと誇りに感じていただけるとうれしいですね。
大会1周年イベントに参加したボランティアたちの熱い寄せ書きとともに
今日から、ボランティアスマイル!
――「ボランティア」の魅力は何でしょうか。
自分を磨けること、なのではないでしょうか。自分では気づけないことに気づかせてもらい、新たな自分を発見しにいく場所。人生を変えるチャンスを一番多く持っているのは、ボランティアの人たちだと思っています。
東京2020大会もそうですが、例えば海外の人たちと触れ合う場合、文化の違いを感じることがありますよね。すると自分の視野が狭いなぁ、と思うかもしれない。ボランティアを通して、今まで自分が経験したことのない文化に触れる。そのことによって自分が変われる。ボランティアにはそういう力があります。
まったく違う意見、文化。そういうものを拒否せず受け入れ、尊重する。その過程で自分自身がより磨かれていくと思うんです。ボランティアはまさにその機会ですね。
ボランティアのみなさんは共通して、何かが「よくなっていってほしい」という思いで集まっているので、その周りには必ず前向きな空気が流れています。
その空気を感じることで、「自分はこういうことをやりたかったんだ」とか、「人がこうやって喜ぶなら自分はもっとこういうことができるんだ」って、自分の良さにも気づけると僕は思っています。ボランティア活動がみなさんそれぞれを輝けるポジションに導いてくれる気がします。
――松岡さん自身の「活動の源」はどこからくるのですか。これからの「目標」はなんですか。
僕にとっては「応援」がまさに活動の源。頑張っている人たちを見ると心や体が勝手に動くんです。そして、応援することによって周りだけではなく自分も前向きになることができる。これが応援の力だと思います。
これからについては、実は大きな目標はないんです。僕はテニスを思う存分できて、その後の活動でもさまざまな人と関われて、相当ラッキーな人生を過ごしてきましたから。しいて言うなら、自分が関わっていく人たちが前向きになれればいいな、と思ってこれまで活動してきましたので、これからもそういうことをしていきたいですね。
――これから何か始めてみようかなという方に、松岡さんからメッセージをお願いします!
みなさん、ボランティア、参加してみませんか。自分が変わるきっかけになるかもしれません。
ボランティアのイメージ、さまざまあるでしょう。ただ、一番大事なのは「スマイル」だと思います。
ボランティアのスマイル、スマイルが自分を変える。
そう、みんなは今日から、ボランティアスマイル!