活動のヒント

  • 子ども・教育
  • 文化・芸術

科学と来館者をコミュニケーションでつなぐ【多摩六都科学館ボランティア】

掲載日:2023.10.31

1億4000万個の星が映せるプラネタリウムが人気の多摩六都科学館(西東京市)。2023年度に開館30周年を迎え、子どもからお年寄りまで多くの人に親しまれています。

参加体験型のイベントやワークショップが人気の同館を支えるのは「多摩六都科学館ボランティア会」のメンバーたち。

来館者と積極的にコミュニケーションし、様々な企画を自主的に提案しているボランティアの活動に密着しました。

科学と来館者をつなぐのはボランティア

「からだラボ」のコーナーでは多くの子どもたちが訪れ、ボランティアの方々が丁寧に対応していました

多摩六都科学館は、ドームの直径が27.5mと世界屈指の大きさを誇るプラネタリウムと5つの展示室を備え、東京都でも有数の規模の科学ミュージアムです。展示は宇宙や生き物、化石など多くの分野がありますが、その中で世代を問わず人気を集めているコーナーが「からだの部屋」の展示室にある「からだラボ」。

ドーナツ状のテーブルの上に数十種類の知恵の輪やパズルが並べられ、来館者は自由に触って遊べます。
大人も子どもも夢中になって知恵の輪と格闘する姿が印象的で、一生懸命になりすぎてプラネタリウムの投影時間に遅れそうな人もいるほど。

知恵の輪を手にした人々に、ヒントを出すのが赤いベストを着たボランティアです。ボランティアとの掛け合いが何とも楽しく、知恵の輪の沼にはまってしまう人が続出しています。

この「からだラボ」は「多摩六都科学館ボランティア会」が運営を任されています。

ボランティア会が活動を始めたのは2001年1月。現在、18歳以上の一般ボランティア約100人、小学5年から高校生までのジュニアボランティア約10人が登録しています。火曜から日曜までの6つの「曜日班」のどれかに所属し(掛け持ち可能)、来館者とのコミュニケーションのほか、班で独自の企画も行っています。

科学館は小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市の5市で運営していて、ボランティアは市報などを目にして応募した人が大半。5市以外の地域から通う熱心な人もいるそうです。

来館者と一緒に楽しむ気持ちで

ボランティアの方々の積極的なコミュニケーションが、来館者の笑顔を誘います

取材に訪れた木曜日も大勢の小学生でにぎわっていた「からだラボ」。団体が見学を終えて静かになると、ある男性ボランティアが来館者の女性2人組に声を掛けました。

席に座って知恵の輪に挑戦する2人に、ボランティアはさりげなく解き方のヒントを出します。最初はおっかなびっくりの様子で知恵の輪をしていた2人も、時間が経つにつれてのめりこんでいきました。ボランティアとの掛け合いを続けて頭をひねり、知恵の輪をはずせたときには大喜びです。

20代の女性は「おもしろかったです。人と触れ合えるのがいいですね」。男性ボランティアも「今は自分で考えて手を動かす機会が少ないから楽しんでもらえるのかも」と話しました。

ボランティアの河野さんは「僕は来館者とのやり取りはあまり上手ではないのですが、『楽しかった』と言われるのはうれしいです。自分自身がパズルを楽しんでいる部分もありますね」と笑顔を見せました。

隣のたくさんの木製ブロック「KAPLA®」があるコーナーでは、ボランティア数人が薄い板状のブロックを積み重ねて「ナイアガラの滝」を作っていました。約30分かけて、身長くらいの高さまで積み上げ、端の方のブロックを一本ずつ抜いていくと、ある時点で滝が流れるように一気に崩れていきます。この立体ドミノのようなデモンストレーションは非常に人気が高く、視覚でも聴覚でも楽しめます。

積み上げていたボランティアの1人、lantanaさん(ハンドルネーム)はボランティア歴23年。

来館した人が何に興味を持って来られているのかを察して、楽しく過ごしていただけるように心がけているそうです。同館ができた当時から家族で訪れるのが好きで、「手伝いたいというよりは、自分がここで過ごしたいという気持ちでボランティアを始めました」と言います。

ボランティア発の企画をきっかけに新たな学びも

ボランティアの魅力について語る河野さん

同館のボランティアの大きな特徴は、自分たちで自主的に様々な提案をして来館者向けのイベントなどを実現させていることです。

楽しく実験や学習ができる科学教室の「たまろく☆サイエンスラボ」は、有志のボランティアでつくる「理科学習班」「雑木林・生きもの観察班」が企画・運営しています。これまでも、リニアモーターカーの製作やダンゴムシの習性を利用した「ダンゴムシと迷路遊び」、「ミジンコ観察教室」など、楽しい企画がたくさん生まれてきました。コロナ禍の間の休止期間を経て2023年夏に復活したそうです。

肉眼でやっと見えるミジンコを拡大して示すミジンコ観察教室(多摩六都科学館 提供)

新しい企画は、ボランティアそれぞれの興味や関心からスタートすることも多く、もともと持っていた専門知識を活かしたり、他のメンバーのサポートを受けたりしながら準備を進め、開催に至ります。一緒に企画を進めるうちに、他のメンバーにも新しい学びや発見があると言います。

河野さんが印象に残っている活動が、館の敷地内に作ったビオトープ池。どうすれば生物が住みよい環境になるかをボランティアが考え、太陽光発電とポンプを使って水の循環をよくするなどの工夫を重ねました。「イトトンボがたくさん羽化した年があり、スイレンの葉の上を這って脱皮するのを自分の目で見た時は驚きました」と、当時の様子を詳しく教えてくれました。

木曜班が夏休みに開く「押し花ぺったんこ」のワークショップは、lantanaさんの楽しみの一つ。身の回りの草花に興味を持ってもらおうという企画で、参加者が押し花でオリジナルのしおりやハガキを作ります。準備は何か月もかかるため、春夏秋冬、日々植物採集を行っているそうです。それでも喜ばれるととてもうれしいと言います。

河野さんは「専門知識がなくても、それぞれの人生経験から、たくさんのことを学びあっています。一緒にいろんなことをやれるような人が来てくれるとうれしいですね」と話します。lantanaさんは「ここにいるだけで日常的に色々な知識を得られるのがうれしいです。ボランティアの仲間と過ごす時間は楽しいですし、興味を持たれた方は参加してみてください」と呼び掛けます。

ボランティア会を担当する同館のスタッフの安倍覚子さんは、「ボランティアにはコミュニケーションが好きな方が集まっています」と言います。

「ボランティアは、科学館と来館者をつなぐ役割を担ってくれています。私たちにとってボランティアメンバーは宝物。人生の大切な時間を提供してくださっているので、来館者と一緒にご自身も楽しんでいただきたいです」と話します。

「みなさんがやりたいことをできるだけ実現できるように」と、安倍さん自身もボランティア1人1人とのコミュニケーションを大切にしている様子が印象的でした。

定年退職後にボランティアに登録する人もいれば、ジュニアボランティア卒業後に改めて登録する人も。新しい知識をみんなと楽しみたい、学び続けたいという気持ちがボランティア活動の大きな原動力のようです。

「からだラボに行けば、ボランティアが温かく迎えてくれます。一緒に知恵の輪やパズルを楽しむのもよし、見ごたえのある展示を楽しむのもよし、まずは気軽に遊びに来てください。そして、もしボランティア活動に興味があれば、私たちスタッフにお声掛けください」

ボランティアの方々と向き合っている安倍覚子さん