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「おもてなし」の心で外国人旅行者にすてきな旅の思い出を【東京都観光ボランティア】

掲載日:2023.09.29

コロナ禍を経て、さまざまな国や地域からの観光客が東京に戻りつつあります。観光案内などを通じて旅行者に東京の魅力を紹介する「東京都観光ボランティア」の活動に密着しました。

「街なか観光案内」で東京の魅力を外国人旅行者に紹介

平日の昼間も多様な人が行き交う、港区・六本木の交差点。地下鉄の地上出口から出てすぐ、道路沿いにある案内地図の横に、ユニフォームを着た2人組の女性が立っていました。

ユニフォームは鮮やかなブルーの格子柄。首から提げた「VOLUNTEER GUIDE」のカードの下には、ボランティアが話せる「English」「한국어(韓国語)」などの言語が記されています。旅行者に声を掛けて、外国語での観光案内や情報提供を行うのが「東京都観光ボランティア」の役割の1つです。

外国人旅行者から道順を尋ねられると、地図などを使って丁寧に案内していました。

東京都観光ボランティアは東京都産業労働局の事業で、約3,000人のボランティアが登録。新宿・浅草・銀座など10のエリアでの「街なか観光案内」、観光スポットを外国人旅行者と一緒に巡ってガイドする「観光ガイドサービス」のほか、「都庁案内・展望室ガイドサービス」、イベント等への「派遣ボランティア」という4つの活動を主に展開しています。

ボランティアとして活動できるのは18歳以上。英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語の各試験等で一定の基準を満たしていること等が条件です。

東京都観光ボランティアの各活動はこの3年ほどの間、活動が制限されていましたが、現在は以前の規模での活動を再開し、外国人旅行者への「おもてなし」が本格的に戻ってきました。

案内のコツは、情報の引き出しを増やすこと

取材当日、六本木の案内地図の近くに立つボランティアの丸山久世(55)さんと三ケ尻典子(56)さんに、外国人の男女が近づいてきました。地下鉄出口から地上に上がってきたばかりで、案内地図を確認しようとしています。

さりげなく英語で声を掛けて、どこに行きたいのかを聞いてみると、香港から訪れたという男女の目的は六本木ヒルズでのショッピング。ボランティアの2人は手元の地図を使って、方向や道順について丁寧に説明します。安心した表情の男女は、笑顔で2人に手を振り、目的地に向かっていきました。

「ご案内した後に、感謝の言葉をいただけるのがうれしいですね。日本語で『ありがとう』と言ってくださる方もいます」と三ケ尻さんは言います。

このほかにも、美術館に行きたいというイスラエルからの家族や、南アフリカの夫婦を案内しました。外国人だけでなく、日本人旅行者から地下鉄の乗り場について質問されることもありました。

ただ旅行者から声をかけられるのを待つのではなく、迷っている旅行者に積極的に声をかけていました。

実は、三ケ尻さんが六本木・赤坂エリアを担当するのは今回が初めて。知らなかった美術館もあり、前日にボランティア専用のeラーニングで予習したそうです。「スキルアップのサポートがしっかりしていて、エリアごとに問い合わせの多い場所や必要な情報を学ぶことができます」と話します。

活動スタートの直前には各エリアの控所に集まり、その日にペアを組むボランティアと情報を共有します。控所には、新しい店舗やバリアフリー情報などについて手書きのメモがたくさん貼られ、ボランティア同士の情報交換も活発です。丸山さんはボランティアの有志で定期的に街歩きをするなど、学びと交流を深めているそうです。

ボランティアの方々は各エリアの控所で情報共有をしてから、現地に向かいます。

「小さな失敗はありますが、そこから自分の引き出しを増やすことが大事。自分の知らないことを海外の方から教えていただくこともたくさんあります」と丸山さん。

9月初めで気温も高かったこの日は、活動できるかどうかギリギリの状況でしたが、休憩を挟んで計2時間の活動は無事に終了しました。気象警報・注意報や熱中症予防情報の数値によって活動を中止する場合があり、ボランティアの安全と健康を守るため、細心の注意が払われています。

東京を好きになってもらうためには、伝えたい気持ちが大切

ボランティアの魅力について語る三ケ尻さん。

学生時代にロシア語を専攻していた三ケ尻さんは「語学を使って人の役に立ちたいと思い、ボランティアに申し込みましたが、難しい言葉は必要ありません。フレンドリーな雰囲気で話しかけるように心がけています」と話します。

「海外からのゲストの方にこちらからどう声を掛けたらいいのか、最初はドキドキしました。でも、実際は気さくに応じてくれる、喜んでくれるゲストばかりです。」

生まれ育った東京について多くの新しい発見ができるという三ケ尻さん。「寺社などの伝統的な場所だけでなく、最先端のスポットについて質問を受けることも多いです。活動を通じて、東京は新しいものが次々と生まれる魅力的な街だと改めて感じました」と話します。

ゲストの方との印象深いエピソードを話す丸山さん。

丸山さんは、街なか観光案内が初めての本格的なボランティア活動で、東京2020大会のボランティアにも登録しました。「東京2020大会で思うような活動ができなかったという方も、ぜひリベンジしていただきたいです」と言います。

「『どこかランチにいいお店ある?』と聞かれて紹介したら、その方が私たちのところまで戻ってきて『すごくおいしかったよ』と言ってくれたこともあります。街なか観光案内を通じて、ゲストの方も私も一期一会の出会いを楽しむことができます。ゲストの方もボランティアにそこまで語学力を求めていないので、『伝えたい』、『教えてあげたい』という気持ちが一番だと思います」

パソコンやアニメの知識が秋葉原エリアでの案内に生かせるなど、それぞれの個性や能力を引き出せるのも、このボランティアの魅力だと丸山さんは語ります。「やらない後悔よりも、やって後悔。いろんな年代や職業の方が気負わずに活動できますし、ここで得た知識や友情は、何物にも代えがたいものです」と参加を呼び掛けていました。

「自分も楽しい。一緒になったボランティアの方も楽しい。そしてゲストの方も楽しんで、またいつか東京に戻ってきてくれるお手伝いをできるのが、このボランティア。ちょっとでも東京が好きになってくれたら、という思いで続けています。一期一会の出会いから、自分の世界も広がります。ぜひ一緒に活動してみませんか。」

東京都では、不定期ですが、毎年秋頃に東京都観光ボランティアの新規募集を行っています。興味のある方は、下記「団体紹介・活動情報」を随時ご確認ください。

案内した外国人旅行者のカップルとの記念撮影。お二人とも快く応じてくれました。