スペシャルインタビュー

  • 地域活性・まちづくり・観光
  • 災害救援・地域安全活動

【箭内道彦さん】ボランティアとつくる、職場でも学校でもない「第3の居場所」

掲載日:2023.03.28

東日本大震災後の「ふくしま」を長年、テレビ番組や広告、音楽活動で発信し続けているクリエイティブディレクターの箭内道彦さん。被災地のリアルを見続けてきた経験と気づきから、ボランティアなどと共に作る渋谷のコミュニティーFM「渋谷のラジオ」を立ち上げました。人と人とがつながり、一緒に作り上げる――。そんなボランティアのカタチについて語っていただきました。

「助ける、助けられる」の次にある「一緒に作る」関係

――故郷の福島県が東日本大震災、東京電力福島第一原発の事故で甚大な被害を受けました。どんな思いから、どう動かれたのでしょうか?

まさか自分の故郷でこんなことが起きるなんて……。ただただその現実に呆然としました。全国の誰しもがあの震災で少なからず傷ついた。自然の力を前に「自分には何もできない」という無力感に襲われたと思うのです。負の力に押し潰されないように、まずは「何もできない自分たち」という出発点に立ってみよう、その上で何ができるかを考えよう。そう思いました。

僕は広告の仕事をしていて、音楽にも関わっている。「発信」することはできるかもしれない。福島の人たちに僕らの思いを、逆に福島の現状を全国、そして世界に発信していく。大怪我をした故郷に必要なもののひとつはお金。僕らのバンド「猪苗代湖ズ」を稼働し、新曲「I love you & I need you ふくしま」をリリース。CDやライブの収益などを義援金として全額寄付しました。

――多くのチャリティーやボランティア活動に取り組む中で、どんな気づきがありましたか?

支援の難しさを感じました。たとえば避難所では「おにぎりをたくさんもらったけれど、食べきれずに捨ててしまった」といった声が聞こえてくる。音楽も同じ。猪苗代湖ズの歌に「励まされた」という人もいれば、「郷土愛を押し付けられている気がして…」という本音も吐露されて。ひとくくりの支援は不可能で、「何が今、必要なのか、求められているのか」を丁寧に確認しながらきめ細やかに進めることの大切さと難しさを痛感しました。

福島の人って「やってあげたい」県民性。持って帰れないほどの野菜をくれたり、重いからいいって言ってるのに一升瓶のお酒をくれたり(笑)。おもてなしすることで自分たちが元気になっていくんですよね。助けられたことに恩返しし、さらには県外の人たち、ボランティアの人たちと一緒に作っていく――。本当の意味での支援の形が、12年かけて見えてきたように思います。

「渋谷のラジオ」は学校でも職場でもない「第3の居場所」

――2016年に開局した「渋谷のラジオ」は、ボランティアの方々と一緒に作っているコミュニティーFMです。設立のきっかけと、その狙いは?

震災でコミュニティーが分断される中、生活情報や災害情報を届けたのはもちろん、不安な人たちを励ましたのはラジオだった。それを身にしみて感じ、東京でもいつか何かが起きたときに機能する地域のメディアが絶対必要と考えました。さらにラジオは、人と人をつなぐコミュニティーにもなる、と。東京って、「木綿のハンカチーフ」みたいに田舎から出てきた素朴な人が、都会の絵の具に染まっちゃうような街というイメージを持つ人もいると思うんだけど(笑)、そんなことはなくて、優しい人もあったかい人もたくさんいる。ただ、確かに隣に住民の顔も知らないという人もたくさんいる。渋谷に集う人たちが互いに顔を合わせ、顔が見える場所が作りたい。さまざまな人たちが出会い、つながる、大きな「町内会」みたいな場になれば、と考えました。

掲げたのは「聴くラジオから出るラジオへ」。聴いている人より出ている人の方が多くて構わない。著名人だけでなく、初めてしゃべるという人たちをマイクの前にどんどん連れてこようと思いました。まさに町内放送を流しているようなイメージです。

――どんな方々がボランティアとして参加しているのですか?

下は小学生から上はご高齢の方々まで、いろんな立場、職業のボランティアが集まっています。開局時にボランティアに応募してきた小学生の女の子は「私、指原莉乃さんが好きです」というので、指原さんの番組「渋谷のさしこ」を担当してもらうことに。途中からその子も番組に出演して、指原さんとトークしていました。そんな風に、普通では一緒にならない人たちがどんどんつながっていく。
また、本職の先輩たちも0から機材の操作方法を覚えてくれました。でも、「カフを上げ忘れた」などの放送事故は実は何度もあって、そういうときはビートルズの「Help!」が自動再生されるのですが(笑)。そのたびにボランティア同士で話し合って再発防止策を考えています。

世の中には学校や職場などの限られた人間関係に追い詰められている人もたくさんいる。それってすごく窮屈。「渋谷のラジオ」にフラリとやってきたら、おもしろいお兄さん、お姉さん、おじいちゃんもおばあちゃんもいて、みんながフラットにつながっていく。それがすごくいい。学校でも会社でもない「第3の居場所」があるのは、コミュニティーにとっても、個人個人にとっても救いにもなれると思っています。

「自分のため」がひいては「人のため」になる

――市民ファウンダーにも広く協力を求めて活動していますね。

財政基盤が弱いので、どうしても協力してくれる人の力が必要でした。「渋谷のラジオ」を立ち上げるときのメンバーの一人から、サッカースペインリーグのFCバルセロナは会員がファウンダーとなって運営していると聞き、それを見習おう、と。やってみて感じているのは、ボランティアだけでなくファウンダーの皆さんも「渋谷のラジオ」が「自分のラジオ」になっていっている。「聴くラジオから出るラジオへ」だけでなく、「作るラジオへ」「支えるラジオへ」という人たちも出てきているんです。これはすごくおもしろい動きだと感じています。

とは言っても台所事情は大変。そろそろ機材を入れ替えなければならないのですが、その財力がない。「うちに新しいラジオの機材があるよ」という方は、ぜひぜひお申し出いただけるとうれしいです(笑)。市民ファウンダーに支えられることで、本当にみんながほしいもの、必要なものをみんなで作っていく、ということが実現できていると思っています。

――ボランティア活動をやってみたいけど、なかなか一歩を踏み出せない人も多いようです。

震災の時、支援活動をするミュージシャンを応援したり、CDを買ったりするのも、間接的なボランティアになったと思うんです。そういうことでいいので、まず始めてみてはいかがでしょうか?

ボランティアに踏み出せない人って、遠慮もあるとは思うのですが、自分でハードルを上げているような気がしていて。「ちゃんと役に立たなきゃいけない」と。もちろんルールとマナーを遵守して役に立つことは大事なんだけど、必要以上に敷居を高くしてしまうことでチャンスを消してしまうのはもったいない。

震災後の福島、そして「渋谷のラジオ」で感じているのが、地元の人もそれ以外の人も、参加している人たちがみんなイキイキしていること。それは「助ける、助けられる」という関係ではなく、みんなが自分の居場所、自分の役割を見つけることができているから。究極は自分のためにやっていることが人のためになる。そして一緒に作っていく。それが、ボランティアが続いていくために必要なことだとも思っています。

自分の中のボランティアのハードルを低くして、自分にとっての理由を見つけて、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。