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ボランティアがつくる第二のわが家【病児と家族を支える「ファミリーハウス」】

掲載日:2025.04.11

子どもが難病にかかり、都心の専門の病院に通わないといけない―。
そんなときに家族の支えとなる「ファミリーハウス」という滞在施設を知っていますか。経済的負担なく、「第二のわが家」として病院の近くで過ごすことができます。親子がともに安心して過ごせる空間作りにかかせないのがボランティア。その活動に密着しました。

「自宅のようにくつろいでほしい」ハウスキーピングのボランティアの役割

中央区勝どきのタワーマンションの一室。ここにファミリーハウスの「うさぎさんのおうち」があります。国立がん研究センター中央病院や聖路加国際病院から徒歩圏内にあり、これまで多くの家族が利用してきました。

平日の午後、うさぎさんのおうちにハウスキーピングのボランティアが続々と集合してきました。和気あいあいとした雰囲気の中、ミーティングが始まります。シフト表をもとに役割分担を確認すると、てきぱきと清掃作業に取りかかりました。

活動前のミーティングに参加するボランティアのみなさん

役割は床の清掃や水回りのチェック、備品の整えなど、次の利用者を迎える準備を行います。元々とてもきれいに見える室内ですが、丁寧に確認して清掃していきます。初めて参加する場合でも、ベテランの方とペアで作業していくので安心です。

特徴的なのが、エアコンフィルターの清掃と洗濯槽の洗浄です。免疫が落ちている入居者のために、フィルターや洗濯槽に付きがちな黒カビを徹底的に防いでいきます。

エアコンのフィルターを清掃していた藤本耕一さんは、訪問医療も担う医師。「ボランティアを始めるきっかけをずっと探していました。医療行為は制限がある他、ルールが定められているためできません。でも、ファミリーハウスの存在を知り、掃除なら自分でもできると思い始めました」と話します。

エアコンのフィルターをはずして清掃する藤本耕一さん

部屋に備え付けの車いすも安全に利用できるかチェック。医療知識があるスタッフの指導を受けながら、折りたたまれた車いすを広げて、タイヤの空気圧や車輪の動きなどを入念に点検していました。

寝室で車いすを点検するボランティアとスタッフ

うさぎさんのおうちは、2011年に誕生。スタッフやボランティアが設計段階から関わってきたうさぎさんのおうち。車いすやストレッチャーでも移動できるように床がフルフラットになっているのはもちろん、祖父母、兄弟などの宿泊や、友だちの面会にも対応できるように、共有スペースと各個室の鍵のかけ方によって独立した空間を作れるコネクティングルーム仕様になっています。家具や小物、食器などのインテリアもここで過ごす人のことを思い、細部まで考え抜かれています。

ベッドやクッション、車いすのカバーは温かみのある刺繍やキルティングのものばかり。どれもボランティアの手作りで、みなさんの愛情が、温かい雰囲気と居心地の良さをつくっています。

病院でもホテルでもなく、家のようにくつろいで過ごせる場所を作りたい―。
こうした想いから、1991年にファミリーハウスの活動が始まりました。土地勘のないまま上京して、ホテルを転々としないといけないような経済的、心理的不安の多い状況を打破するため、治療を受ける小児患者の親が中心となりスタートしたそうです。現在は東京都内に8施設17部屋が用意され、患者なら無料で利用でき、家族も1人1泊1000円の自己負担で利用することができます。

利用者のお子さんは免疫力が弱っていたり、酸素吸入器が必要だったりと状況はさまざま。治療を続ける病院とも連絡を取り合いながら、状況に合わせて環境を整えているそうです。

ボランティアがタオルで作った「タオルくま」と手作りのベッドカバー

「ここにある全ての物が自分のためにある」と感じてもらう環境づくり

この日、車いすの点検などをしていたのは、ボランティア歴20年の西坂真弓さん。うさぎさんのおうち設計時からずっとハウスを支えています。

ボランティアの中心メンバーである西坂真弓さん

西坂さんがボランティアを始めたのはドキュメンタリー番組がきっかけ。難病と闘う小学生が、食事制限の辛さから、お母さんに激しく感情をぶつける様子が忘れられないといいます。もし自分が難病と闘う子どもの母親だったら、大変なときを乗り越えるために必要なものは何だろうと考え、家族を応援するボランティアを探しました。

「ファミリーハウスのボランティアは縁の下の力持ちなので、ハウスの利用者さんに直接会う機会は少ないです。まずは、利用者さんと直接関わるのではなく、自分ができることをできる範囲でできるハウスキーピングのボランティアに挑戦することにしました」

ハウスを利用するのは、乳幼児から中高生まで。家族構成もさまざまです。西坂さんは、「わが家」のようなくつろぎ感があるように、一般的な日用品に加えて、年齢や家族構成に応じて、その都度部屋に置く備品を考えるといいます。例えば、ティーンの子が利用するときは、子ども用のいすやおもちゃは片づけてマンガを出しておくなど、「ここにある全ての物が自分のためにある」という環境づくりを心がけているそうです。

西坂さんに、医療的な知識が必要な場面があるか聞くと、「ない」とさわやかに言い切ります。医療的な配慮が必要な場面は、必ず看護師など専門的なスタッフが立会い、一緒に作業を進めていくそうです。

「スタッフは安全面や医療的なことのルールや気を付けるべきことをしっかり見てくれています。その分、私たちボランティアは「自宅より少し綺麗に」を合言葉に環境づくりに集中できています。『どうしたら、病院のことをひととき忘れて普段の日常をここで過ごしてもらえるか』ということをみんなで考え、季節感のある飾りつけなどもアイデアを出し合って行っています」

室内にはボランティアやスタッフを紹介するボードも

西坂さんにファミリーハウスの好きなところを聞くと、深い答えが返ってきました。「ハウスを支えるスタッフ、ボランティアはみんな『利用者さんのためにできることがあれば』という思いで集っています。人のことを思いやる真摯な気持ちにたくさん触れることで、社会は捨てたもんじゃないと思えるし、社会を信じられる。声を出せば、届くと信じられる。だから、自分自身も先のことを不安に思わなくていい、きっと大丈夫という安心感を得ることができています」と教えてくれました。

活動の最後に記念撮影するボランティアとスタッフのみなさん

できるときに、できる人が、できることをすることを大切に

社会福祉士の植田桃子さんは、ハウスマネージャとしてボランティアをまとめています。改めて、ファミリーハウスのボランティアの特徴を聞きました。

ボランティアの特徴について話すハウスマネージャの植田桃子さん

ファミリーハウスは元々、全員がボランティアでスタートしました。今は法人となりましたが、250人を超えるボランティアさんの担う役割はとても大きく、なくてはならない存在です。

その経歴もさまざまで、シニアの方、主婦、医療従事者、元患者やその家族などなど。定期的に参加する企業ボランティアも少なくありません。

ボランティアの役割は、ハウスキーピングの他に、ベッドカバーを作ったり、季節のプレゼントを作ったりする「手仕事」、ハウスの近くにある農園で果物や野菜を育てる「園芸」、イベントの運営サポートなどがあります。

その他に、専門的な知識や能力を生かした看護師やWEB制作などのプロボノも活躍しています。

「うさぎさんのおうち」が入る集合住宅の敷地内にある「うさぎ農園」。ニンジンやブロッコリー、小松菜などが栽培される

活動は全て定例開催していますが、毎回必ず参加しないといけないということはないといいます。うさぎさんのおうちも毎週水曜日に活動していますが、それぞれのお仕事や子育てなどの予定に合わせて、月1回のペースで参加している方もいるそうです。

年に1回、玄関の掃き掃除だけでもいい。「できるときに、できる人が、できることをする」という理念を大切にしているということです。

「興味はあるものの、今は忙しくてボランティアできないという方も、ぜひ月に2回オンラインで開催している説明会だけでも聞いてみてください。私たちは、まずは病院の近くにハウスがあるということを知ってほしいと思っています。いろいろな人の寄り集まりで温かさができているので、関わる人が多い方がうれしいです」と話します。

「ボランティアというと、敷居が高いと感じるかもしれません。特に、連絡して行動に移すのはなおさらだと思います。でも、勇気を出して一度やってみると、意外と自分にもできることがあるということに気づかれるのではないでしょうか。ぜひ、一緒に活動してみませんか」