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堺大空襲を語り継ぐ 大学生「次世代の語り部」に 対象者拡大し募集

2025.02.11
 【大阪】1860人が犠牲になったとされる「堺大空襲」から今年で80年。実態を語る体験者が高齢化し、後世に伝え続ける手立てが課題になっている。堺市が大学とともに進めているのが、若者が体験者の記憶を語り継ぐ取り組みだ。
 「焼夷(しょうい)弾は、雨あられのように落とされた。金の雨、火の雨、金の滝、火の滝が町中に降り注いだ。堺のまちは、見渡す限り炎に包まれた」
 昨年12月16日、堺市西区の向丘小学校で、4年生の児童たちに紙芝居をしながら語りかけたのは、市内の羽衣国際大学3年、木村貴子さん(21)。米軍機による空襲で燃えた堺の絵を自分で描いた。「堺大空襲を体験した人たちの『戦争をしたらあかん』という思いと記憶を、一言一句間違えないように伝えていきたい」と言う。
 市によると、太平洋戦争中の1945年3月13日から8月10日まで、5次にわたる空襲を受けた。このうち7月10日未明の「堺大空襲」では、全半焼した家屋は1万8千戸を超え、死者1860人、重軽傷者972人にのぼった。
 堺大空襲の体験を木村さんに伝えたのは、堺市南区の中野亘子さん(88)ら「ピースメッセンジャー」。市が協力を依頼している語り部ボランティアだ。
 中野さんは教室で児童たちと一緒に、木村さんの話に耳を傾けた。空襲時、近郊の疎開先で火の海となった堺の街を目撃し、自宅も全焼したという。「私の体験が次の世代に伝えられていく。それって、すごいことだと思います」と話す。
 市は昨年9月から羽衣国際大と連携し、「次世代の語り部」を育成している。長崎市や広島市などの同様の事業を参考に、戦争体験者との交流や講話の練習といったプログラムをつくった。
 戦争の基礎知識から学ぶ演習に参加したのは15人の学生。木村さんは戦争に関心を抱き、空襲の体験者から直接話を聞きたいと考えた。祖父からベトナム戦争の話を聞いたという留学生も手を挙げた。
 担当する市人権推進課の山口修平さん(40)は、出張先の長崎で、被爆者の代わりに原爆の被害を分かりやすく伝える若者の姿に衝撃を受け、堺でも次世代の語り部の育成を構想し始めたという。「戦争を知らない世代が語り部を務めるには工夫が必要で、(木村さんが使ったような)紙芝居はその一つ。戦争は絶対に起こしてはならないと、戦争経験のない世代に伝え続けてほしい」と語る。
 ピースメッセンジャーは過去に8人が登録され、小中学校などで話をしてきたが、現在は2人に減った。木村さんに空襲の記憶を伝えたのは3人だったが、このうち92歳の男性は昨年12月に亡くなった。
 市は、次世代の語り部育成を持続可能な事業にするため、対象者を「戦争体験の伝承に意欲がある人」に広げ、語り部を募集している。15人程度で、3月28日まで。
 4~7月の演習は羽衣国際大との連携を続ける。申し込みは市人権推進課(電話072・228・7420、ファクス072・228・8070、メールjinkensui@city.sakai.lg.jp)へ。(辻岡大助)