活動のヒント
国立競技場前に茶室、神宮外苑に2つの城、代々木公園に浮かぶ雲、渋谷に植物が並ぶ庭や大きな木製のボウル……
2021年夏、五輪が開催されていた東京の街のあちこちに建物やオブジェがあらわれました。草間彌生さん、藤森照信さん、妹島和世さんら9人のクリエイターが「東京」という都市に新たな物語をつくることを目指した企画「パビリオン・トウキョウ2021」です。
「パビリオン・トウキョウ2021」は、オリンピック・パラリンピックが開催される東京を文化の面から盛り上げる「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の中核イベント「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」のひとつ。東京都とアーツカウンシル東京、パビリオン・トウキョウ2021実行委員会による取り組みです。
偶然に通りかかった人、地図を片手に9つのパビリオン巡りを楽しむ人。7月1日~9月5日の開催期間中、多くの人たちが作品に触れ、クリエイターの創造力に思いをめぐらせました。
それぞれの作品のそばで「パビリオン・トウキョウ2021」のロゴがあしらわれたTシャツを着て、訪れる人を迎え、作品の紹介をしている人たちの姿がありました。「パビリオン・ガイド」――ボランティアの方々です。参加したボランティアは「東京を盛り上げたい」「日本のアートを紹介したい」など様々なおもてなしの心を持っていました。
パビリオン・ガイドとして活動した碧(みどり)さんと長井聡子さんのお二人に、活動で感じたことやボランティアとの関わりなどについてうかがいました。
高校生も参加できた!
東京を盛り上げるボランティア
碧さんは現在高校生で、中学から海外のインターナショナルスクールに通っています。2020年の夏休みに家族で帰国したところ、新型コロナウイルスの影響でそのまま日本にとどまることになりました。
友達とも会えない中、ただ時間を過ごすのではなく自分からできることはないかと考えてたどりついたのが「パビリオン・トウキョウ2021」のボランティアでした。
「本当はオリンピック・パラリンピックのボランティアをしたいと思ったのですが、年齢制限で高校生の私には応募資格がありませんでした。そこで『東京』『ボランティア』『高校生』とネット検索をして見つけたのが『パビリオン・トウキョウ2021』でした。企画内容を読むと、著名な建築家やアーティストの作品に触れられる貴重な機会だと感じてすぐに応募しました」
碧さんは建築やアートに詳しいわけではなかったものの、建築を学んでいる大学生ボランティアに教えてもらいながら、外国人の来場者に英語で説明したり、写真を撮ったりと、仲間と支え合いながら訪れる人たちと接しました。
ある時、「2回目です」という方がいたそうです。「その言葉を聞いた時、1回目の来場時に良い印象を抱いたので再び来てくださったのだな、と感じました。その空間づくりに役立てたようでうれしかったです」と笑顔で話しました。
碧さんは、「Global Bowl」で作品の中に入って写真を撮っている家族の様子を見た時に「この作品はこうして人が触れてこそ成立するのだな」という発見があったと言います。 クリエイターの方と直接お話ししたり、建築やアートに詳しい来場者から逆に教えてもらったり、期間中にパビリオンの”色”が変わっていく様子に愛着を感じたり。活動を通じてアートへの関心が大きく高まり、もっと日本のアート作品に触れたい、他の文化ボランティアにも参加してみたい、と感じたそうです。
仲間から学んだ積極性
碧さんは友人と、これから環境問題に関わるボランティアに取り組みたいと考えています。いま考えているのは、企画から自分たちで行う環境ボランティア。「『パビリオン・トウキョウ2021』で知り合ったボランティア仲間が積極的に行動する様子に刺激を受けました。私はもともと人見知りなのですが、このボランティアを通じて変わりました。私ももっと自分から行動してみようと思っています」とまっすぐに前を見据えて話しました。
大好きなサッカー観戦から
足を踏み入れた世界
長井さんがボランティアに関わるようになったきっかけは、大好きなサッカー観戦でした。1998年、サッカーの世界大会を見にフランスまで行った際、せっかくだったら観戦するだけではなく試合を支えているボランティアの人たちがどんなことをしているのかも見てみよう、と思ったことが始まりです。ちょうどその少し前に開かれた長野五輪でボランティアの活躍が報じられているのを見て、大きなスポーツ大会に市民が関われることを知ったことも影響しているそうです。
そして、「国や地域を越えて色んな人が楽しめることがスポーツの大きな魅力。自分だけでなく他者も楽しめるようお手伝いができれば自分の世界がもっともっと広がっていくだろう」と日韓で開催されたサッカーの世界大会ではボランティアに応募。競技場の外で来場者の誘導を担当しました。
思った以上に海外の来場者から道案内を求められ、驚いたと同時に、自分では当たり前のようにわかっていることでもこんなに力になれるものなのだ、ということに気づいたと言います。
その後、アートイベント「スマートイルミネーション横浜」でのボランティアを経て、今回、「パビリオン・トウキョウ2021」に参加しました。「旅行先で美術館や建築めぐりをするのが好きなので、旅行者が求める情報が体験的にわかり、経験を生かせるのではないかと思いました」
気負わず自然に
長井さんはアートに詳しいわけではありません。パンフレットに書かれていることを元に、知っている範囲で作品について来た人に説明しました。ただ、来る人たちが体験型のアートに触れて楽しそうにしている様子を見るにつれてアートがどんどん身近になったそうです。
「街中での開催によって、これまではアートに興味がなかった人がアートを身近に感じる。『パビリオン・トウキョウ2021』はそうしたきっかけになっていると感じました」
長井さんにとってボランティアは「自分が好きだからしていること」で、「それが人の役に立つのならうれしい」という気持ちで行っているそうです。大きなイベントに関わってきた一方、これからは規模の小さな地域の活動にも携わりたいと考えていると言います。
「人の役に立てばうれしい、という気持ちはもちろんですが、そういう視点だけではなく、なによりも参加している本人が楽しんでいることが大切だと思います。すると自分も加わりたいと思う人たちが増えて、ボランティアの裾野が広がる気がします」
「細く長く活動したい」と笑顔を見せた長井さんは、気負うことなく自然体でした。