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紙芝居の魅力を伝えたい 水島勝鐘さん(74)、聖子さん(65) 夫婦でつくる交流の場

2024.07.25
 東京の下町、葛飾区金町のマンション1階に、交流スペース「こころみ亭」がある。3人の子どもを育て上げ、夫の両親の介護を終えた後に出合った紙芝居の魅力を伝えたいと、水島聖子さん(65)が開いて3年。紙芝居の作り手、読み手、聴き手が学び合い、楽しむ場所となっている。 (小形佳奈)

◆葛飾の「こころみ亭」

 「カッパのパパはパパカッパ、はい」「カッパのパパはパパカッパ」

 6月上旬、こころみ亭で開かれたシニア向け紙芝居講座。紙芝居作家の本多ちかこさん(69)が自作の「カッパのおやこ」を題材に、参加者と1文ずつ唱和していた。パ行の発音で口の動きが滑らかになる効果に触れ、読み方や場の盛り上げ方を伝授した。

 参加したのは読み聞かせボランティアら14人。元保育士で紙芝居創作歴30年以上というピーマンみもとさん(66)は「絵が苦手でも大丈夫」と、写真を使って作った紙芝居を実演。デイサービスで紙芝居をしている品川区の50代女性は「月に1度は来ている。こんなに楽しく学べる場所はない」と満足げだ。会場の後方では、水島さんと夫の勝鐘(かつかね)さん(74)が笑顔で見守った。

◆その場が一つになる

 水島さんは、勝鐘さんの両親を相次いで見送った翌年の2013年、図書館の読み聞かせボランティア講座に参加し、紙芝居の世界へ。作品の芸術性から読み手の演出まで「まさに紙の芝居。多世代が楽しむ様子に心動かされた」。ボランティアで介護施設や児童館を訪れ、「年齢や人数に関係なく、その場が一つになる」という紙芝居の力に魅了された。「全国紙芝居まつり」で各地の関係者と交流を深めた。

 数年前、まだ会社勤めをしていた勝鐘さんの退職後を見据え、今の場所を借りた。和菓子店だった54平方メートルを改装し、小上がりとトイレ、流し台を設置。「こころみ亭」には「紙芝居を中心に文化・芸術・芸能の試みができる場所に」との思いを込めた。最初の催しは21年6月、新型コロナウイルス下、仲間内だけで開いた紙芝居の講座。この年の秋から徐々に一般向けのイベントを増やした。今は週2~3回のペースで企画を打つ。

 勝鐘さんは当初、妻がなぜ紙芝居に入れ込むのか理解できず、「会場の開け閉めをするだけの人」だった。外部講師を招いた手作り紙芝居教室に人が集まらず、やむなく参加。実家が鮮魚店だった自らの生い立ちや、買い物客の様子などを描いた初めての作品が昨秋、紙芝居文化推進協議会のコンクールで入賞した。発表に向け読み方を練習して「プロのすごさが分かった」。紙芝居は自己表現の一つと体感した。

◆手作り教室は大盛況

 異なる入り口から紙芝居の世界にはまった2人は、愛好家の裾野を広げようと、「カブトムシと紙芝居の会」「おもちゃの広場」など親子向けの催しも企画している。勝鐘さんの入賞効果か、手作り紙芝居教室は今では大盛況という。

 問い合わせはメール=cocokamisibaidokoro@gmail.com=へ。

◇広がるシニア向け 図書館にコーナー

 子ども向けが中心の紙芝居だが、高齢社会を受けて、シニア向けの市場も広がりつつある。

 シニア向け紙芝居を出版する「くるんば」(兵庫県宝塚市)の松村康貴代表(53)は、前職の出版社で2000年代初頭から他社に先駆けてシニア向け紙芝居に携わった。20年に個人で会社を作り、昔の風習など回想的な要素を取り入れた紙芝居を手がける。購入した介護施設から「お年寄りから『自分はこうだった』といった反応が返ってきて、意思疎通がしやすくなった」との報告が届く。「戦後世代も高齢者となり、ネタは変わっていくかもしれないが、コミュニケーションツールとして今後も需要はある」とみる。

 シニア向け紙芝居のリストを作ったり、専用コーナーを設けたりする公立図書館もある。東京都稲城市立中央図書館では16年にコーナーを開設。今年1月には所蔵する57点のシニア向け紙芝居を含めたリストを作成した。「金色夜叉」「愛染かつら」といった映画化された作品や、特殊詐欺に注意を促す紙芝居がよく貸し出されるという。