スペシャルインタビュー
俳優・ミュージシャン・映画プロデューサーのディーン・フジオカさんが、自身の誕生日にファンに呼び掛け、フードドライブの活動に取り組んでいるのを知っていますか。家庭で余っている食べ物をフードバンクに寄付すると、フードバンクを通じて児童養護施設や福祉施設などに届けられます。なぜ、ディーンさんがフードドライブに取り組むのか、その思いや海外生活で得た気づきなど、存分に伺いました。
フードドライブには「体温を届ける」力がある
――ディーンさんが取り組む「フードドライブ」は、どのような活動ですか?
「フードドライブ」の活動はとてもシンプルです。世の中、たくさんの食べ物が余っている一方で、食べ物が不足し、必要としている方も数多くいます。フードバンクに食べ物を寄付することで、余っているところから、必要としている方に届き、さらにはフードロスの削減にも貢献できます。気軽にできて、ポジティブな正のスパイラルが回っていく、まさに“一石三鳥”なアクションだと思っています。
――この「フードドライブ」にディーンさんが取り組んだきっかけを教えてください。
海外では、ごはんが食べられない人を目の前で見てきました。一方で、自分はエンターテイメントを仕事とするようになり、時には華々しさに触れることもあります。その両方の社会が、全くつながっていないように思え、“絶縁体”があるように感じていました。
この2つの社会をつなぐために、自分だったら何ができるのかを考えた結果、その答えがフードドライブでした。
思いの積み重ねが、大きな力になる
――これまでにファンクラブ「FamBam(ファムバム)」を通じて寄付された食料は7トン以上。
ファンの皆さんと取り組むフードドライブのはじまりは、2016年のバースデーライブだと聞きました。
大勢の皆さんに、毎年誕生日を祝ってもらえることはとても幸せなことです。ただ、自分ひとりが恩恵を受け取るよりも、一緒に祝いたいし、本当に必要な方にも届けたいと思うようになりました。
2016年はバースデーライブの会場に、プレゼントの代わりに食べきれない保存のきく食べ物を持ってきてもらい、約1.5トンの食料をフードバンク団体のセカンドハーベスト・ジャパンに届けることができました。
2021年からは、毎年誕生日の期間に、ファンの方やフードドライブの取り組みに賛同いただいた方から、直接セカンドハーベスト・ジャパンに食べ物を送ってもらっていて、2021年は約2.6トンもの食料が集まったということです。
やっぱりみんな、「人のために自分ができることがあるんだろうか」、「力になりたい」という気持ちがベースにあるんだなと思いました。
――ファンの方々の絆やパワーをどう感じていますか?
思いが積み重なっていくとこれだけの力になるんだなと、すごく驚きました。FamBamの皆さんが自分のメッセージを前向きに受け止めて、行動に移してくださったことに感謝しています。
お送りいただく方には、発送前に箱詰めした食べ物の写真を撮ってもらい、想いやメッセージなどを、ハッシュタグをつけてSNSに投稿してもらっています。SNSを通じての活動の広がりも実感していますし、送っていただいた食品に添えられた手紙や飾り付けなどのプラスアルファの工夫を見ると、やっぱり体温、想い、情熱とか、愛というものを感じますね。そのすべてを自分だけが受けとめるんじゃなくて、自分を通して、それを必要としている人に届けたいと改めて思いました。
――一般的なファンクラブの枠組みにとらわれないパワーがありますね。
そうなんです。FamBamはファンクラブとして単に組織化するというよりも、理想や目的をかかげて、みんなが同じ方向の空を見ている形にしたかったんです。FamBamの精神(“Family Always Means Backing Any Member”の略。いつどこにいても家族の様に支えあえる仲間、の意味)を形にしたような活動を、一緒に楽しみながらやっていきたいですね。
2022年の「FamBam Food Drive Project」でファンから届いた食料品の一部
社会にポジティブな循環を生み出す一翼を担っていきたい
――このような社会貢献活動は、個人でも昔からやっていたんですか?
募金箱に寄付するぐらいのことはやっていましたが、自分の意思で明確にアクションを起こしたのは15年ほど前です。台北にいた頃に、スーパーで購入した食べ物や飲み物を持って、台北市内の孤児院に友人と行きました。「何かしなければ」という漠然とした思いがあり、計画を立てましたね。
買ってきたものを子どもたちと一緒に食べたり、遊んだり、ギターを弾きながらみんなで歌ったり、日本語を少し教えたり。それだけでも喜んでもらえました。帰る時に、「バイバイ!」と言ってくれる子どもたちの笑顔は、とても印象的で忘れられないし、今でも鮮明に覚えています。
――ほかにも、FamBamの精神を形にできるようなプロジェクトに取り組んでいますね。
絵本「ふぁむばむ」を出版した際は、絵本の収益金やクラウドファンディングでのご支援を、「アジアの子どもたちに絵本を通して学びの機会を提供するプロジェクト」の活動に活用させていただきました。
また、「ディーン・フジようかん」のプロジェクトでは、原材料のコーヒーの購入代金の一部を、絶滅危惧種のオランウータンが住む森の環境保護などのために寄付しました。
クリエイティブな仕事なども通して、正のスパイラル、ポジティブな循環を生み出すことをこれからも続けていきたいです。その結果、取り組みが広がり、輪が大きくなっていってくれたら嬉しいですね。
――正のスパイラルの大切さに着目されるようになった、そもそものきっかけを教えてください。
学生時代にバックパッカーとしてさまざまな国を巡り、究極の貧困を目の当たりにしました。貧乏旅行だったので、一番安い移動手段、宿、ご飯を選んでいましたね。そうすると、お金がない人たちの横をすれ違っていくわけです。自力では絶対に抜け出せないような負の宿命、負のスパイラルを目の当たりにしました。何もできないなと思ったし、実際何もできませんでした。
それでも何ができるかを考えたときに、その時に見た光景、自分の思いを絶対に忘れない、忘れないでいることはできるなって思ったんですよね。忘れないでいようと心に誓い、今も同じ気持ちです。
――旅行だけでなく、長く海外に居住されていました。そのことも影響しているのでしょうか。
たとえばアメリカでは、週末に街中で炊き出しをやっていました。食べるものに困ったら、そこに行けばごはんがあるっていうのが当たり前の社会で、自分もサポートを受けたことがあります。
着るものも同様で、廃棄するのではなく、それを必要とする人に届ける仕組みが完全にできあがっていましたね。正のスパイラルをまわしていく大切さに気付いたのは、自分もそれに助けられたという経験がやはり大きいです。
自分さえ潤っていればいいという考えでも生きてはいけます。でも、人は生きていくうえで、必ず誰かのサポートをいただいているわけで、それを社会に還元していく、正のスパイラルをまわしていくことは大切だと、経験を通して気づきました。
――今後は、フードドライブなどの活動をどう発展させていきたいですか?
特に何かを達成しようという思いはありません。ただ、継続することに意義があると思っています。だから、仕事においてプロであることにブレがなければ、フードドライブをはじめ、次に何をするかが自然と見えてくるのかなと思います。
日本をはじめ地球規模で、と言うと話が大きくなってしまいますが、世界はつながっているわけです。自分の国籍のある国だろうがない国だろうが、正のスパイラルを生み出す方向に向かって、選択し続けることをあきらめないでいたいです。社会にポジティブな循環を生み出す一翼を担っていくことができたらいいですね。
――ボランティアや社会貢献と聞くと難しく考えがちですが、ディーンさんのようにポジティブに活動するためのヒントを教えてください。
誰しも人のために何かしたいという思いを持っていると思います。その思いを行動に移すためには、まずは自分が楽しむこと、そして自分の心身に余裕があることが大切だと思っています。
自分を大切にして、さらに自分が楽しみながら何ができるのかを考えていくと、自分の得意分野や性格、バックグラウンドに合わせたボランティアへの参加の形が見えてくるのではないでしょうか。その時が来たら、みんなで一緒に正のスパイラルを回していきましょう。
――ディーンさんの取組に共感された方は、当サイト「 東京ボランティアレガシーネットワーク」でもフードドライブやフードバンクの取組を紹介しています。詳しくは、下記リンクをご覧ください。